Book
戦争と平和1

まちんと
松谷みよ子/文 司修/絵
偕成社 1978年
広島で被ばくしたもうすぐ三歳になる女の子。トマトを口に入れてやると、まちんとまちんとといって、もっと欲しがります。母親が焼け跡からやっとトマトを探してもどると、女の子は「まちんとまちんと」といいながら死んで鳥になるのです。
最終見開き、ブルーを基調とした画面を、地平線から顔を出した太陽めがけて、白いハトが横一直線に飛びます。右ページの中央には、大きな千羽鶴を両手で支えて立つ少女の姿がシルエットで描かれています。薄明の中で、朝日を目指してまっしぐらに飛ぶ、少女が化身した平和の象徴である白いハトに、核のない未来への希望を託したように読み取れます。
詩のような短い文章と絵が、相互に補完し合いながら読み手を引き込み、読み返すたびに新たな発見があるのです。60年代末から70年代にかけて、海外の絵本の影響などから、絵本表現手法が大きく変わってきましたが、その成果が見事に反映された素晴らしい絵本に仕上がっています。
1983年の改訂版では、初版本に2場面描き加えられました。1場面目は、「ほらそこに――」の文章と、カーテンを開けた窓の向こうに広がる家々の上の空を、白いハトが飛ぶ、明るい日常の光景。2場面目は、スモッグに煙る東京の光景に「いまも――」とたった三文字だけ。そこに、飛ぶハトの姿は見えません。初版発行の78年から83年までの間に何があったのか。79年3月28日、アメリカのスリーマイル島の原子力発電所で起こった事故が、この二場面を書き加えさせたのです。(野上 暁)

ひろしまのピカ
丸木俊/ 文・絵 丸木位里/協力
小峰書店 1980年
原爆投下直後の広島に入り、夫の丸木位里とともに1950年以来「原爆の図」を描きつづけ、海外でも高く評価されている画家の創作ドキュメンタリー絵本です。
みいちゃんという7歳の女の子が主人公。8月6日の朝、テーブルを囲んで両親と食事しているとき、原爆が投下されます。火の中から助け出したお父さんを背負い、赤い箸を握ったままのみいちゃんを抱きかかえ、火炎の中を逃げ惑うお母さん。まるで絵巻の「地獄草子」を彷彿させられるような場面が続き、その描写力に圧倒させられます。みいちゃんが握っていた箸は手から離れず、お母さんが固く握った指を一本一本ほぐしてやり、4日目に箸はやっと手から落ちます。
いつまでたっても7歳のときのままで、ちっとも大きくならないみいちゃんの頭をなでながら、髪の白くなったお母さんが「ピカは、ひとがおとさにゃ、おちてこん」という最後の言葉が、被爆後の後遺症の悲惨と核の恐ろしさを象徴的にものがたり、核のない世界へのメッセージともなっています。(野上 暁)

上から読んでも下から読んでも「サルビルサ」。馬に乗って槍をかざし獲物を追う古代神殿から抜け出した石像のような男。反対から頭にターバンを巻いた男がラクダに乗ってきて、二人の槍が同時に獲物を射止めます。獲物を奪い合う二人は、「サルビ」「ビルサ」と叫びあい、獲物の所有権をめぐって二つの国は兵隊を繰り出すことに。たくさんの兵士たちが「サルビ」「ビルサ」とわめきながら、砂漠を舞台に 激しい戦闘が始まります。
戦争の無意味さを象徴するかのようなナンセンな展開に、剣をペンに持ち替えた怪鳥スズキコージの、平和への願いが炸裂する見事な絵本。(野上 暁)
サルビルサ
スズキコージ/ 作
架空社 1996年