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記事:大竹永介, 写真:澤田精一

6月4日講演&トークイベント開催!

ウクライナ戦争下で〈非戦〉について考える


 去る6月4日(日)午後2時から神保町出版クラブにてコロナ禍以後初めてのフォーラムリアルイベント「ウクライナ戦争下で〈非戦〉について考える」が開催されました。第一部の講師は戦場ジャーナリストの志葉玲氏(写真)。現地での直接取材の体験をもとに、具体的な映像を交えて戦争の悲惨さとその収束の難しさについて語られました。第2部は金敬黙早稲田大学教授の司会による大学生5名と志葉氏を交えてのトーク。「非戦」というテーマにとどまらず「メディアのあり方」からコミュニケーションの問題まで幅広く熱心なトークが展開されました。イベントに参加されたお2人の方から感想をお寄せ頂きましたのでご紹介いたします。


文責:大竹永介

写真:澤田精一


●講演とトークを聴いて

  森埜こみち


 志葉玲さんのお話は、とてもわかりやすく、すとんと胸に落ちました。

 じつはずっと気になっていたことがありました。日本に避難したウクライナ人女性がNHKで制作を担い、「平和を取り戻すために、この戦いに勝利しなければならない」と番組内にことばを入れようとしたら、日本人のディレクターに止められてしまったのです。ことばが強すぎる。平和を取り戻す、で収めるようにと。彼女は訴えました。「わたしだって平和を望んでいる。1日も早い平和を。そのためには勝たなければならない」。でも、理解は得られず、番組はそんな彼女の姿を伝えることで、なにかを伝えようしていました。彼女の思いが、志葉さんのお話を聞いてわかったように思います。「ロシアに妥協するわけにいかない。すれば、同じことがまた起こる」。この感覚なんだな。この感覚をどのレベルで感じているか、なんだな。

 停戦=平和、ではない。さらにいえば、不戦=平和、ではない。平和を手に入れるためには戦わなくてはいけない。戦争を放棄した日本でも戦えることはある。人道支援の継続もそのひとつ。ロシアからガスを買わないこともそのひとつ。アメリカと中国の融和のために外交力をつかうこともそのひとつ。まだまだあるはず。平和はただでは手に入らない。そうやって戦い、志葉さんのおっしゃるとおり、国連憲章が歯止めとしてがっちりかかる世界を一日も早くつくらねばならない。そう思いました。

 学生さんたちの意見や感想もお聞きできてよかった。わたしが学生の頃より、ずっとしっかりものごとを見ていて、頼もしかった。メディアの中立性も話題になりましたが、自由にものがいえない国の報道を、量だけ等しく流しても、中立性を保持したとはいえないと思いました。どんな国でもバイアスはかかっているけれど、プロパガンダの報道はある程度絞ったほうがいいように思います。

(もりのこみち:作家。新刊に「どすこい!」国土社刊)







●世界の片隅で〈非戦〉について考える

米田久美江


 ウクライナ戦争下で凄まじい環境破壊が起こっている惨状に、一刻も早く停戦をと考えがちだが、停戦では性暴力や略奪が止むわけではなく命も人権も安全ではないという投げかけがあった。なるほど、いかに、ロシアを国際法に従わせ、ウクライナから撤退させるか「非戦」とすることが重要なのだ。

 基調講演を受け、第2部では「非戦と不戦、反戦、停戦」「避難民と難民」、それぞれの言葉の概念を明確にしないと、議論がかみ合っていかないという、対話の前提の大切さから始まり、言葉のリテラシーを高める必要性に言及された。

 閉会後の懇親会では、登壇者の方々と直接お話しする機会があり、志葉氏から「イラクで拘禁された時には、その前に『夜と霧』(ヴィクトール・E.フランクル みすず書房)を読んでいたので、強制収容所に入れられるとどういう精神状況に陥るかわかっていた。だから、すぐに、開き直って状況を受け入れ対処できた。」というような意味のことをお聞きした。読書がストレス耐性を高くするとはよく言われることだが、このような過酷な状況の中で、読書が役立った体験をじかに聞き、物語の力の偉大さ、必要性に、改めて感じ入り、志葉氏のリテラシーの高さに感服した。この時の収容所体験については『たたかう!ジャーナリスト宣言 ボクの観た本当の戦争』(志葉玲著 社会批評社2007.6) のなかで触れられている。

 言葉の本質を見極め、適切に使われているかを、常にチェックしながら、傍観者の枠から一歩でもでるために、暮らしの中であらゆる暴力性を排除する努力とともに、〈非戦〉への対話につなげていかなければならないと肝に銘じる機会となった。

 過去の例を挙げるまでもなく、始まってしまった戦争は、当事国の世論を一気に偏らせる。戦争をさせないための根回しが、まさに、若者を交えての今回のフォーラムである、今後の企画にも期待したい。

(よねだくみえ:児童文学書評家。月刊書評誌「子どもの本棚」などで活躍中)



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